あなたは「デザイン思考」という言葉を知っていますか?
デザイン思考と聞くと「デザイナーのための言葉?」と思う方も少なくないと思います。
しかし、今や全てのビジネスパーソンに必要な考え方となってきています。
情報過多のこの時代に、いかに消費者のニーズにマッチした価値を提供するかというのはビジネスパーソンにとって大きな課題ですよね。この課題をクリアするのに大きく役立つのがデザイン思考なのです。
今回は任天堂やサムスンなどの大手企業も導入している「デザイン思考」について解説していきたいと思います。
【目次】
デザイン思考とは?
「デザイン」と聞くとファッションデザイナーやインテリアデザイナーなどが思い浮かぶかと思います。おそらくあなたが思っている「デザイン」とは外見などのハード面を装飾するものでしょう。しかし、ここでいう「デザイン」は少し意味が違います。
デザインは本来「設計」という意味で、「順序立てて制作していく」という意味を持ちます。デザイン思考に関しても、この設計という意味のほうが合っています。デザイナーの方が何も書かれていない紙にいきなりデザインを書き始めたりしませんよね?そこには一定の考え方やプロセスがあります。デザイン思考を生み出したハーバート・サイモンは「現在の状態をより好ましいものに変えるべく行為の道筋を考案するものは、誰でもデザイン活動をしている。」と語っています。
つまりデザイン思考とはデザイナーがデザイン業務で行う思考方法のプロセスを応用して、ビジネスなどにおける前例のない問題や未知の課題に対して最も相応しい解決策を探すための思考方法のことを言います。
注目されるようになった背景
ではなぜデザイン思考は注目されるようになったのでしょうか?
現代と過去のビジネスの特徴を比較しながら説明していきます。
- 過去のビジネス【モノ消費】
20~30年前、まだスマートフォンやパソコンが普及していなかったころ。新しい商品やサービスを生み出す現場では市場のニーズ調査の結果から「こんなものがあるとどうだろう?」という仮説を立てて開発をしていました。新しいもの、新鮮さを感じるものは売れましたし、どんなものにニーズがあるのだろうと調査して課題を捉えることも比較的容易でした。それは世の中がまだ今ほど便利なものに溢れていなかったからです。 - 現代のビジネス【受動から能動へ】
しかし現代になってからはどうでしょう?スマホ1つで買い物はできますし、世界中の最新情報が手に入ります。技術革新によって世の中は便利なものに溢れ、ニーズは簡単に満たされてしまいます。そんな中で、同じ種類の商品Aと商品Bがあったら人々はどちらを選ぶでしょう。もちろん自分により合っている商品を選びますよね。つまり昔は受動的に商品を提供されていた消費者が能動的に商品を吟味するようになったのです。したがって、現代では多様化する消費者ニーズにすべて対応することはとても困難になってしまいました。
そこでこのデザイン思考という考え方が注目されるようになったのです。詳しい内容は以下で説明します。
デザイン思考のマインド
デザイン思考をするうえで心がけるべき3つのマインドをご紹介します。
- 常にユーザーの視点に立つこと
デザイン思考において一番重要なのは、常に「ユーザー視点」で考えることです。
「本当のユーザーの課題は何か」「ユーザーはどこに価値を感じるのか」など、市場のニーズを重視するよりも、ユーザーの視点でプロセスを進めていくことを意識する必要があります。
- コミュニケーションを活発に
デザイン思考を進めていくうえで、コミュニケーションも大切になってきます。
問題解決のための方法は数多くあり、人によって意見も異なるのでできる限り役職などは関係なくフラットな関係性で、心理的安全性を確保したうえで進めて行きましょう。 - 何度もプロセスをやり直す
ビジネスで「トライアンドエラー」という言葉があるように、デザイナーの仕事は一度作って終わりというわけではありません。作っては修正を繰り返し、試行錯誤を重ねていく中でユーザーにとっての最良の制作物を生み出していきます。また、頭でっかちに机上の空論を並べているだけでは意味がないので、始めは完璧ではなくてもユーザーに触れてもらい、ユーザーの反応を見ることも重要です。
デザイン思考のプロセス
では具体的にデザイン思考とはどのようなものかを説明していきたいと思います。
デザイン思考のプロセスは以下の5つで構成されています。
- 共感
ここでの「共感」とは、ユーザーへのインタビューや観察を繰り返し、ターゲットを理解することを指します。 - 問題定義
「共感」のフェーズで得られたユーザーの意見や情報から本質的な悩みはなんなのかを見つけ出します。なぜ問題意識を抱えているのかや周りの環境など、さまざまな観点から見つめることが重要です。 - 創造
「問題定義」のフェーズで得られた本質的なニーズを満たすもの、解決するためのアイデア出しをします。ブレインストーミングなどのように現実性は加味しない、否定的な意見は言わないなどを意識して、とにかく沢山のアイデアを出すことを心がけましょう。 - プロトタイプ(試作)
「創造」フェーズで出たアイデアの中から支持を得たアイデアを試作段階へと進めていきます。低価格で繰り返し行うことができるレベルでプロトタイプを作成します。 - テスト
「プロトタイプ」のフェーズで作成したプロトタイプから実践同様のテストを行います。チーム以外のメンバーにフィードバックをもらい、レベルの高いアウトプットになるように昇華させていきます。新しい問題が出てくるはずなので、「プロトタイプ」と「テスト」を繰り返します。
デザイン思考の活用例
- 商品・サービス開発
商品やサービスを開発するときにデザイン思考は有効です。先程も述べた通り、価値観やニーズが不明確で混沌と化した現在では、ユーザー視点で考えることが不可欠となっています。 - 人材育成
デザイン思考はチームだけでなく、個人の考え方にも反映させることができます。組織に大きな利益をもたらすイノベーション人材になるためにはこのデザイン思考的な考え方が必要になってきます。
- より強いチームを作る
デザイン思考は「メソッド」ではなく思考法、つまり「マインドセット」です。上記で説明した、5つのプロセスを何度も繰り返していくうちに課題解決に取り組むチーム間の連携が強まっていきます。
企業でのデザイン思考活用例
それでは最後にデザイン思考を取り入れた企業の事業例を2つ挙げたいと思います。
iPodの開発
こちらは、Appleにおける商品・サービス開発の事例です。
共感:競合他社の製品分析とユーザーがどのように音楽を聞いているのかを徹底的に観察しました。その中で、ユーザーの多くがCDからPCへ音楽を保存し、それを音楽プレイヤーに移すことを手間に感じていることを発見し、「いつでもどこでも音楽を聴きたい」というユーザーの潜在ニーズを見出しました。
問題提起:ユーザーのいつでもどこでも音楽を聴きたいという想いを元に、「音楽の聴き方に革命を起こす」「すべての曲をポケットに入れて持ち運ぶ」といったコンセプトを掲げました。
創造:スクロールホイール、PCと自動同期させるためのAuto-Sync(オートシンク)機能といった斬新なアイデアが生まれました。
プロトタイプ:約2か月で100回以上のプロトタイプ。
テスト:ミュージックストアの開設に合わせて改良版が投入されるなどの改善を重ね、現在の製品が誕生しました。
Yahoo! JAPAN
こちらは、Yahoo! JAPANにおけるより強いチームを作ったという事例です。
共感:企業規模拡大に伴い意思決定や業務遂行のスピード感が落ちているという社内全体の課題意識がありました。
問題提起:課題を克服するためにユーザーファーストなサービスを作ることを意識するようになりました。
創造:どうすればユーザーファーストを実現できるのか考えて出た答えが「デザイン思考」でした。
プロトタイプ:社内で有志を募り、デザイン思考ワークショップやセミナーを定期開催しました。
テスト:社内ワーキンググループが立ち上がり全社的な取り組みへと発展しました。
デザイン思考のまとめ
いかがだったでしょうか?
今回ご紹介したデザイン思考は、マーケティングだけでなく様々なビジネスシーンで活用することができます。顧客に寄り添った商品を作るため、より連携の取れたチーム作りのために是非活用してみてください。