【今さら聞けない】働き方改革とは

【今さら聞けない】働き方改革とは

労働環境の改善は、今や企業だけでなく国全体に関わる課題です。

その改善のために、数年前から実施されている”働き方改革”

それによって日本はこれからどうなっていくのかと関心の高い方は多いと思います。

しかし、そもそも働き方改革とは何なのか?具体的に何を指しているのか?いまいちわからない方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は働き方改革についてご説明していきたいと思います。

働き方改革とは?

働き方改革とは、一言でいえば「一億総活躍社会を実現するための改革」といえます。

一億総活躍社会とは、少子高齢化が進む中でも「50年後も人口1億人を維持し、職場・家庭・地域で誰しもが活躍できる社会」です。

働き方改革を行う目的は、一人一人の意思や能力、そして置かれた個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会を追求する働き方の改革を進めて行くことで、人々のワーク・ライフ・バランスの実現、生産性の向上を図っていくことです。

また、働こうとする意欲のある人が、できるだけ多く働ける環境を作り、国に税金(所得税)を納めてもらい、あわせて世帯単位の可処分所得を増やし、消費を刺激してインフレ率「2%」を達成することで財政の好循環を実現するという目的もあります。

働き方改革が叫ばれる背景

日本の労働環境には、昨今話題になっている「長時間労働」、「正規・非正規」という2つの働き方の不合理な処遇の差、子育てや介護等との両立、副業・兼業など働き方の多様化など様々な課題があることに加え、労働生産性の向上を阻む多くの問題が存在します。

  • 労働人口の減少
    まず第一に懸念されているのが、労働力人口の減少です。労働力人口とは、労働に適する年齢以上のもので労働の意思と能力を有する人の数のことをいい、就業者と完全失業者を合わせたものをいいます。

    人口減少社会に突入した日本では、それに伴い、労働力人口の減少が問題になっています。内閣府が発表している、日本の将来人口統計によると、今後も人口減少が大幅に改善することは見込まれず、現在の人口増加・減少率のままでは2050年には総人口9,000万人前後、2105年には4,500万人まで減少すると言われています。労働力人口を確保するためにはさらなる「働き方改革」が必要です。

    日本 将来 推定人口

    出典:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s2_1.html

  • 長時間労働
    日本社会に残る弊害の1つです。日本は欧州諸国と比較して労働時間が長く、「KAROUSHI(過労死)」という言葉が英語辞書に掲載されるほど、長時間労働や仕事上のストレスにより自殺・死亡する労働者が増え続けています。その背景には、「残業すればするほど評価される」という労働的価値観や、企業の使命は絶対であり、プライベートを犠牲にしなくてはいけないという日本人特有の考えがあるのかもしれません。

    労働基準法では、使用者は1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないと定めていますが、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)を結び、特別条項を付記すると事実上、無制限に働かせることができてしまいます。

    働き方改革では、この長時間労働の是正を行うため、時間外労働の上限を定め、罰則を設ける法改正を検討しています。

    平均労働時間

    出典:https://toyokeizai.net/articles/-/66272?page=2

  • 少子高齢化
    少子高齢化も日本にとって重要な課題のうちの1つです。65歳以上の人口比率は増え続け、2060年には総人口の40%となり、2.5人に1人が高齢者となることが予測されています。

    少子高齢化

    出典:http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc112120.html

    このまま出生率も減少を続けていってしまうと、2060年には合計特殊出生率は1.35にまで減少することが見込まれています。これには晩婚化など様々な原因が考えられますが、少子高齢化の原因の1つに労働時間の長さもあげることができます。

    このように様々な社会問題が現代の労働環境を構成していると言えます。

働き方改革における政府の施策

これまで、働き方改革がどうして施行されたのかについてご説明してきました。

次に、具体的に政府がどのような施策を考えているのかということにいてご説明していきたいと思います。

  • 労働時間の是正
    長時間労働の結果として、「うつ状態」になったり、その状態がさらに長時間継続すると正しい判断力を失い、自殺するという最悪の結果に至るということがあります。労使協定で残業時間の上限は決められてはいますが、労使の話し合いで同意が得られれば、例外協定として、さらなる長時間労働も容認されることがあります。政府はその教訓を元にして1ヶ月で100時間以内(2~6ヶ月の平均残業時間80時間以内)という上限値を決めることにしました。

    また大企業に限定されていますが、残業時間が50時間を越えるとそれ以後の残業時間に対する賃金割増率を50%としました。

    労働時間の是正

    出典:https://business.bengo4.com/articles/365

  • 正規・非正規間の賃金格差の解消
    日本の労働慣行から見ると、同じ仕事を同じ時間こなせば同じ給与を支給されるというのが理論的に正しいといえます。正規従業員と非正規従業員に賃金格差があること自体、異常な状態といえます。しかし、日本の現状としては、非正規従業員の賃金は正規従業員の60%に過ぎないと言われています。全く同じ仕事で、同じ生産性にも関わらず賃金が大きく違うことは公平の原則に反します。

    もちろん、正規従業員は長時間労働や転勤などの条件を有しているので、全く同じ賃金では逆に正規従業員から反発が来るかもしれません。まずは、非正規従業員の賃金を正規従業員の80%に引き上げるという努力をすることが妥当でしょう。

    しかし、その差をなくせば、企業における総人件費が増加し、最悪の場合その企業の競争力低下に繋がる可能性もあります。今や、国内だけでなくグローバルに競争しないと企業は生き残れないので、「同一労働同一賃金」を実施するにはその企業にも相当の覚悟が必要だと思います。その施策を行うために総人件費のアップというデメリットを生産性の向上やIT化などの手法で総コストが上がらない改善を同時に行う必要があるでしょう。

  • 高齢者の就労促進
    近年、少子高齢化の影響もあり、高齢者の就労が促進しています。年金の支給額だけでは満足できる生活を送れないという現実が働きたいと思う第一の理由でしょう。ハローワークでは年齢を制限してはいけないという建前がありますが、雇用する側としてはなるべく若くて元気な人を採用したがります。応募時点では年齢制限を設けていなくても、いざ面接となれば若い人を優先して採用しているかもしれません。

    高齢者で健康問題を抱えていない人は、若者よりも経験豊富であり、職場によっては若者以上に力を発揮できるといえます。高齢者の就業マッチングが今後確実に大事になって来るでしょう。

改革を行う前にやるべきこととは?

会社で働き方改革が必要なことは理解しているものの、実際に取り組むにあたり何から始めたら良いのかわからないという経営者やマネージャーの方も多いのではないでしょうか。

全ての改革を一度に行おうとしても、足並みが揃わず停滞しやすいものです。まずは順を追って、段階ごとのクリアを目指していくことが大切です。

働き方改革を実現するためには以下の3つのポイントが挙げられます。

  • 会社の現状把握
    改革の第一歩として行うべきこととしては、自分の会社の現状を把握することです。「就業規則」や「雇用契約書」などを用いてルール化している就業時間や休日の内容を調べ、実際に働いている社員がそのルールを守っているのか、実際はどうなっているのかを調査していきます。なお、厚生労働省が提供する「働き方・休み方改善指標」を利用することで、企業の社員がどのように働いているか、どのように休みをとっているかなどの内容を調査することができます。こういった指標を活用することで調査を効率よく進めることができるでしょう。
  • 問題点の洗い出し・分析
    現在の会社実態の情報を収集できたところで、次は内容の分析に取り掛かります。上で記述した「働き方・休み方改善指標」を用いて現状把握を行なっている場合、まずは「ポジションマップ」を活用し、自社の労働状況や各種休暇取得の実態が適切なものかを調べます。その上で「レーダーチャート」を活用することで、改善すべき具体的な問題の内容を洗い出すことができます。
  • 改善するための対策検討
    企業が抱える課題が明らかになったところで、次はその課題をどのような手順で解決していくかを考え、取り組み内容を設定します。取り組み内容を実践する際には、まずはその取り組みを進めるためのルール作りなど体制を整えることから開始します。次に、経営幹部や一般社員を相手に取り組みを周知する行動へと移ります。その際には、書類配布や研修など、社員全体が取り組みの内容をしっかりと理解し、労働環境を根本から見直すことができるような方法を取る必要があります。

働き方改革の成功事例

東日本電信電話株式会社(NTT東日本)

東日本電信電話株式会社(NTT東日本)

東日本電信電話株式会社(NTT東日本)は、通信業を営む社員数5000名ほどの会社です。生産性の高いワークライフバランスの実現を掲げ、以下の取り組みを行いました。

在宅勤務を積極的に活用し「Web会議」を導入
在宅勤務を積極的に活用する他、移動時間や費用削減のために「Web会議」を導入しました。

時間外労働を夜型から「朝型」にシフト
20時以降の時間外労働を原則として禁止する一方、時間外労働を朝の6時からと定めました。

この取り組みの結果、働き方改革の導入後は導入前と比べて時間外労働時間が13%減少し、月間労働時間が45時間以上の社員が34%減少しました。

社員からは、「仕事と家庭を両立できるようになった」「夜遅くに働くよりも健康的な生活になった」という意見が寄せられました。時間を意識して計画性を持って働くようになったという意見もあり、社員の意識改革にも繋がっています。

Yahoo(ヤフー)株式会社

ヤフー株式会社

ヤフー株式会社は、インターネット事業を営む従業員数4860名の会社です。同社では、仕事・家族・社会を見つめ直す休暇として以下の制度を導入しました。

土曜日が祝日の場合、前日の金曜日を休暇にする「土曜日祝日振替休暇」
土曜日祝日振替休暇は、土曜日が祝日と重なった場合に、前日の金曜日を休暇として3連休にする制度です。取引先や出向先の都合で金曜日に取得できない場合、翌月末までの振替が認められています。

最長3ヶ月間休暇にできる「サバティカル休暇」
サバティカル休暇はキャリアを見つめ直すために利用できる最長3ヶ月の休暇です。勤続10年以上の正社員が対象で、2~3ヶ月間の休みをとれ、1ヶ月間は給料も支給されます。取得後には報告書の提出が必要です。

課題解決休暇
課題解決休暇は、「他人の課題を解決するため」の有給休暇制度で、年度内3日を上限に取得できます。条件は専用アプリで報告書を提出することです。課題解決の種類は問われず、例えば、地域の夏祭りの手伝い、自治会のゴミ拾い、東日本大震災復興イベントなどが挙げられます。

以上の3つの施策は、従業員が仕事と自分、家族、社会の関わりを見つめ直し、多様な働き方の実現に貢献しています。

働き方改革のまとめ

このように「働き方改革」は現代社会に必要な改革です。働くためには「健康」である必要があり、仕事と同時に「遊び」も計画的に取り入れる工夫が必要でしょう。

働き方改革は大手企業だけでなく、全企業の大半を占める中小企業やスタートアップにもその取り組みが求められていきます。

企業自体の利益アップにも繋がると思うので、是非社員の幸せのために施策を検討してみてはいかがでしょうか。